月下星群 〜孤高の昴

    “寄り道のあとで”

       *今頃になって、
        アニメオリジナル“エピソード・オブ・ルフィ”ネタです。
        原作派の方にはやや不親切、
        まだ未視聴の方には
        ネタバレがチラホラしております、申し訳ありません。
  


偉大なる航路の後半部分、
レッドラインという大陸の向こう、
“新世界”と呼ばれる苛烈な海域へ突入してまだ日も浅く。
まだまだ未踏の地も多く、海流や気候の資料が少ないという自然環境的にも、
そこに巣喰う強わもの海賊たちや、
そういった輩を相手にしている老練な海軍関係者たちが
手ぐすね引いて待ち受ける海域だという人為環境的にも、
半端な覚悟では踏み込めぬとされているところ。
それと同時、
この偉大なる航路のゴール、ラフテルを目指す者には
是が非でも踏破せねばならぬ“正念場”でもある訳だが。

 「あれ? ゾロはどうしたんだ?」

世界に通ずと胸を張ってもいいくらい、
それはそれは腕のいい職人たちが集められたハンズ島。
だがだが、利己的な栄誉欲しかない海軍将校による
理不尽な専横に苦しめられてもいた人々の、
苦衷を象徴していた大砲台を打破し、
問題の将校も打ちのめした我らが麦ワラの一味であったれど。
そんなすったもんだののち、
長居は無用と出港してから気がついたのが、
仲間内の約一名がまだ船に乗っていないという事実だったりし。

 「え?」
 「あれ?」
 「そういや、随分と早くから見ないよな。」

やはり砲撃に巻き込まれかかった窮地から、
宙を飛んで避けるという、およそ船にはあり得ない方法で回避したは良かったが、
そのまま島の奥地のジャングルに突っ込んでしまったため、
補給も兼ねてのこと、
人のいるところまでをと出た最初のお出掛けの途中から
姿が見えなんだ三刀流の剣豪さん。
すぐにも寄り道へとすっ飛んでいってしまう船長とは
微妙に性分が違ってのこととはいえ、
どうしようもない方向音痴は相変わらずで、
それでも皆が放っておいたのは、
腕に自慢の一端の剣豪、
保護や監視の要るよな幼子でなし、
何よりそういう扱いを受け入れる素直な気性でなし。
それと……、

 「あー、あんなトコにいたっ!」

どこをどう歩いて辿り着いたやら、町外れの密林の中、
見張り台だろうか、櫓のようになった
四阿(あずまや)もどきの屋根の上へ立っている長身を見つけた船長が、

 「ぞーーーろーーーーーっっ!」

それは良く通るお声をかけた途端、

 「…あ、聞こえたみたいだ。」
 「つか。何であんな“びくくん”って怯えたんだ、あいつ。」
 「珍しいことですよねぇ。」

いくら船長であるルフィが相手であれ、まずは見たことのない反応。
屈強な肩を見るからに弾いての ややのけぞってしまったゾロの様子へ、
まだ事情が十分には入っていない部分だったか、
フランキーやブルックが、はてな?と小首を傾げ、

 「叱られるとでも思ったのかしら?」

私も知らないと言いたいか、?こそ付いてた口調だったれど、
何とはなく、薄々、とうに察しがついてたらしいロビンが
くすすと艶やかに微笑ったのの語尾が消えぬうち。
風を切るよに“どびゅんっ”と飛び出したのは、
この船に搭載されたどの武器にも負けぬ素早さや命中率を誇る、
ルフィのゴムゴムの能力を帯びた両腕で。

 「…届くもんなんですねぇ。」

額へ庇のように手のひらかざして、現状を眺めつつ。
されど、眼前の状況へ、
今更だからか、さして驚いてはいないらしい、
それは平板な声で言うブルックだったのへ。

 「そういや千年竜の巣を探したときも、
  随分遠い山の中腹にいたゾロを
  同じようにして捕まえてなかったっけ?」

あれも アニメオリジナル、(おいおい)
グランドラインへの突入直前に、
今現在の仇敵役とお声が一緒のカマカマの実の能力者相手に回し、
奮戦したんでしたっけねという一件を思い出し。
同じようにと口にしたウソップが、
やはり単調な声で応じたところにかぶさって、

 「…いやな予感が、とか言ってるようね。」

剣士さんにも覚えはあるらしいわよと、
胸元に両腕をクロスさせているロビンが呟く。
大方、無事かどうかを一応は確かめようと、
ゾロの間近へ ハナハナの能力で自身の“耳目”を送ったらしく。
それにてキャッチしたのだろ、
雄々しき隻眼の剣豪さんの、やや慄きに震えるお声というレアな代物へ。
あからさまに目元をたわめ細めて、
こらえ切れずの“うふふvv”という笑みを見せているほどだからして、

 「あ、やっぱ“アレ”か。」

心当たり大有りの、シェフ殿と狙撃手さんが顔を見合わせたその頭上。
しゅんっと海風とはきっぱり方向違いの旋風が突っ走り、
それへ続いて、今やすっかりと大型化した彼ら一味の頼もしき基地船、
サウザンドサニー号へと飛んで来た何かが宙を舞う。

  これでも一応は、別行動のその中で、
  巨大砲台から放たれた途轍もない砲弾を
  ことごとく真っ二つに切り裂く荒業で、
  町を壊滅から救った英雄だってのに…ねぇ?(笑)

冗談抜きにほんの一瞬でも目を離すととんでもない方へ向かう、
迷子になりやすい体質のゾロではあるが、
これが不思議と、戦いの正念場では
主幹部が揃い踏みしている現場にちゃんと間に合う勘も持ち合わせていて。
喧嘩好きの血が騒いで嗅ぎ分けるんじゃないか、
いやいや、体力有り余ってるから
縦横無尽にローラー作戦仕掛けてるうちに辿り着くんだろうさなどと。
諸説ある中、一番説得力があったのが、

 『ルフィの気配を、
  真っ直ぐ追っかけてるまでのことなんじゃないの?』

本人、まったく意識はしてないんでしょうけれどと、
さらりと言ってのけたナミの見解が
最も的を射ているんじゃないかというのが総意だったりし。

 「何せ、一番厄介なところへまっしぐらする性分してっしな。」
 「そうだよな。」

お陰さんで
関わらなくても良かった騒ぎに どんだけ巻き込まれたことか。
そんなルフィの気配あるところといえば、
奴には美味しいことなのだろう、
大揉めに揉めての混戦状態になった修羅場が待ち受けてるに違いなく。

 「解きほぐすんじゃなく、
  一刀両断していいんだよなって、
  喜々として飛び込むんだぜ、あの野郎。」

 「…お前も同類だろうが、その辺。」

何を言うか、あんな根っからの喧嘩好と一緒くたにするなよな、
俺はただレディを守る騎士として…と言いかかるのへ。
女にいいトコ見せたいから参戦してるにしちゃあ、
途中から ただのどっちがたくさん薙ぎ払ったか競争になっとるだろうがと、
ドングリの背くらべだお前らはと、肩をすくめつつ。
やや白々しくも
斜めな方向へ無難に話を逸らしたウソップだった傍らから、

 「そかーvv ゾロには大好きなルフィの居所が判るのかぁvv」

凄いなぁそれ、と。
それは罪のないにこにこ笑顔で言い切る、トナカイドクターさんがいたりする。
何とはなく察していても、
そこはそれ、高みを目指すハイレベルな男同士の絆とか何とか、
そっちの友好関係から来るアレなんだろと
言葉を濁したかったらしい狙撃手さんとしては、

 「…うんうん。
  罪のない子供の言う“大好き”なら、まあ問題はないか。」
 「誰が子供だ、このやろー

そこへは敏感なチョッパーが食ってかかってる向背では、
やはりやはり、後先考えてなかったらしい船長の、
強引な“連れ戻し技”のお陰様。
頑丈な主帆柱のど真ん中へ
ビターンッと叩きつけられての帰還を果たした剣豪さんが、

 「る〜ふぃ〜い〜〜〜
 「あ、悪ィ悪ィvv」

まさかゾロんこと置いてくわけないじゃんか、
そっちじゃねぇわい、このドあほ…っ#と。
一番真っ当で判りやすい理由からのお怒りに燃えるゾロから、
待たんかこら、今回ばかりは許さんぞ、
一発殴らせろ…という鬼ごっこが始まっており。

 「確かにまあ、
  せっかくのパーカーサーを置いてくのは
  のちのちの戦いで手不足になって不利かも知れんからなぁ。」

置いてくつもりはないというルフィの言いようには、
友情じゃ何だじゃなく、それなりの理由からながら
反対しないと言ったつもりのサンジの背後から、

 「誰がパーだとぉ?」

真あっ黒なお声が轟いたりして。
見聞色の覇気が使えても、すぐ背後に回ってた同じレベルの使い手には通じぬか。
腰に差してた大太刀の1本、確かに鯉口切ってる音がして、
剣豪さんが鬼気迫るお顔になっての成敗してくれんとする間際にて。
ほれ、今日のおやつだと、
チョッパーがそのまま風呂に出来そうな大鍋をウソップに手渡しつつという、
なかなかの余裕があった金髪痩躯のコック殿。

 「おや。今回は出番がなかった分も含めて、
  思う存分、ルフィを追っかけてたんじゃなかったか?」

 「うっせぇなっ

  お前みたいな
  年がら年中“女おんなvv”と頭に花咲いてる奴から
  パーなぞと言われとうないわい。

  誰が頭に花咲いてるだとぉ?
  大体、俺が言ったのは
  狂戦士って意味の“パーカーサー”で、
  パーなんて言ってねぇんだが、

 「さては自覚があったか、こんの脳まで筋肉脳男。」
 「言いやがったな、鼻血まゆげ。」

言ってはならぬことを いつまでもいつまでもぐじぐじと
いつまでも鼻血出してる進歩なしはどっちだよ、ああん?と。
少しでも逃げることが忌ま忌ましいからだろうが、
だからってそれもまた鬱陶しいことこの上ない、
おでこをくっつけ合うほどの至近から睨み合ってるイケメン二人からやや離れ。
ブランコが下がる甲板の一角、芝生の上へ腰を下ろして、

 「あの呼吸のいいところはさすがだよな。」
 「戦いのさなかだって、結構 呼吸合ってるよな、あの二人。」

一体いつの間に仕込んで焼いたやら、
細いリボンをハート型にクルリンとよじられた形もかわいい、
大鍋いっぱいのプレッツェルを ぽりぱりと食べつつ見物に回っている
チョッパーとウソップの傍らから、


  「それよか、なあゾロ、鬼ごっこもう終わりか?」


こちらさんも一体どこから近寄っていたものか、
つまんねぇぞと、やはり焼きたてプレッツェルをムシャムシャしていた
そもそもの騒ぎの大元だった船長さん。

 「まあアレだ、
  遠くの敵より近くの味方にこそ油断をするなって事だわな。」

当人には さして企みなんてなくとも、
だからこそ、考えなしに余計な騒動に首突っ込んじゃあ、
こっちにまでとばっちりが来た事態も数知れずだし…と。
そのお陰様でどれほど鍛えられたことかというのは さておいて。
見当外れな暴挙はお任せという、
実は どんな凄腕の敵よりおっかない、
そんな“味方”がうようよおいでの困った一味なのを嘆きつつ。
しばしの安息、穏やかな晴れの海をのんびりと進む、
サウザンドサニー号だったのでありました。




   〜どさくさ・どっとはらい〜  2013.06.21.


  *入院した日も、確か 台風3号が北上しつつあったはずなのですが。
   あれはあっさり消えたのにねぇ。
   今度こそということか、結構なお湿りと風を伴って、
   本土上陸を狙う嵐とともに、やっとこ帰って参りました。
   折れた足首を支えていたプレートと
   それを留めてた木ネジを取り出す手術は
   問題なく済んだのですが、
   何だったら抜糸まで居るかと訊かれて、
   抜糸まで風呂にも入れぬままになるのは面倒だったので、
   (病院にいれば途中経過を診てもらえる。)
   そのまま合計10日ほど入院していた怠け者です。
   それにしても、暑かったり寒くなったり
   今年の梅雨も落ち着きがありませんな。
   そんな中、病院でごちょごちょと妄想していた
   ネタのうちの1つがこれです。
   あのお話の後、
   絶対にこうやってゾロを連れ戻したルフィに違いなく。(笑)
   2年間の修行で色々と達人になっていても、
   根本的なところは変わってないと嬉しいなと。(こら)


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